手習師匠とのお話では、弥勒寺子屋の手習師匠として講座をもっていただく先生と、代表の上田祥子との対談をお楽しみください。
第一回目は、同志社大学生命医科学部・アンチエイジングリサーチセンターの米井嘉一教授をゲストにお届けします。アンチエイジングの概念を日本に広めた第一人者であり、糖化ストレス研究のパイオニアでもいらっしゃる米井先生。幼少期からのエピソードからアンチエイジング、糖化についてもたくさんのお話を伺うことができました。第一回目はスペシャル回として、前編・後編の2回に分けてお届けします。
落ち着きのなかった幼少時代から、医学部を目指すまで
上田:米井先生はアンチエイジング研究を牽引されてきただけでなく、「糖化」という言葉を生み出し、さらにその概念を世に広められた方でもあります。そんな凄い方でありながら、とても明るく、チャーミングなお人柄というギャップが素敵です。今回はそんな先生ご自身のヒストリーにも触れながらお話を伺いたく存じます。本日は宜しくお願い致します。
米井先生:こちらこそ宜しくお願いします。
上田:先生はどんな幼少期を過ごされたんですか?
米井先生:僕はね、小学校一年のときは多動児だったと思うんだよね。教室でじっと座ってられなくて、よく立たされてたから。上級生になるにつれて段々と落ち着いのかな? 授業中座れるようになって。
上田:なんだか好奇心の塊みたいな米井少年の姿が目に浮かびます(笑)。
米井先生:変に記憶力も良くて、3歳の頃祖父と救急車に乗ったとか、4歳の頃お尻にできものができたこととか鮮明に覚えてるんだけど、友達からは信じてもらえない(笑)。
上田:普通はあまり記憶してないですよね。しかもお尻のできものまで(笑)。先生は全く偉ぶることもなくとても気さくでいらっしゃるのですが、初対面ではあまりお話にならなかったのでちょっと緊張しました。人見知りな感じは子供の頃からですか?
米井先生:昔から人見知りでもあるけど、人間観察が好きなところがありますね。人に興味があるから、無意識に解析しようとしてるのかもしれない。
上田:ちょっとこわくもありますけれど(笑)。そんな先生が医学部を目指されたきっかけは何だったんですか? ご実家もお医者様ですか?
米井先生:いや、僕の父は商社マンだったんだけど、学閥で苦労したりしてね。サラリーマンの大変さをつぶさに見て、手に職を持つべきだと感じたこともきっかけです。だから医師だけではなくて、弁護士、演奏家、小説家なんかも考えたな。
上田:小説家とは意外です。でも「糖化」という伝わる言葉のセンスとか、文学の才能に通じる気がします。
米井先生:中学生の頃からかなりの読書家で。退廃的は太宰文学なんかにも憧れてね。北杜夫の『楡家の人々』なんかにも感銘を受けたんだけど、それより北杜夫が精神科医であり作家であるというのがちょっとカッコいいなと(笑)。いきなり作家だけで食べていくことは難しいから、北杜夫の影響で医学の勉強しながら小説も書いてたの。
上田:そうだったんですね! でも意外というよりむしろしっくりきます。その後医師になるまでは大学でどんな学生生活を?
米井先生:ヨット部とテニス部に入ったんだけど、テニス部は勉強との両立が難しくなって夏の合宿までで辞めてしまって。ヨット部は青春と重なる楽しい時間でした。専攻については、僕は不器用な方で手術が向かないと思ったし、内科の道を選んだんです。
「アンチエイジング」の考えを日本に広げる
上田:その後大学院まで卒業されて、アメリカにも留学をされて。アンチエイジング、という新たな分野を日本に広められました。
米井先生:1989年から病院の消化器内科に勤務したんです。人間ドックにも駆り出されたたりと本当に忙しくしていたんだけど、その後1999年にアメリカで開催された学会に出席して、アンチエイジングというムーブメントを知りました。これは素晴らしいと。それで日本でもアンチエイジングの学会を作ろうと決めて2000年に抗加齢医学研究会を発足させ、それが現在の抗加齢医学会ですね。もう一つ、病院にアンチエイジングドッグも作ったんです。
上田:先生ご自身がアンチエイジングに着目された一番の理由は何ですか?
米井先生:僕は医師として、「歳だから仕方がないです」ということは言いたくなかったんだよね。老化は防げるし、それで病気も防げるんです。
上田:近年では老化は病気だなんて言われ方もするようになりましたが、まさに予防医学の原点と言えそうですね。アンチエイジングドックでは具体的どんな検査をされるんですか?
米井先生:老化のしかたは人それぞれだから、どこが老化しているかを調べてそこの是正をはかる。また老化を促進させる危険因子も人それぞれ違うから、糖化ストレス、酸化ストレスなど、どこが問題なのかを調べてバランスをはかっていくんです。通常の人間ドックの検査項目にはない血管年齢やホルモン年齢、骨年齢、神経年齢、筋年齢など5つを測定します。
上田:なるほど。それは普通の人間ドックでは受けられない内容ですね。
米井先生:普通の人間ドックでは見つからない老化の危険因子を見つけられるのがアンチエイジング・ドック。老化を一つの病気と捉えて早期に発見するのが大切なんです。僕はあれもこれもやってはいるけど、多動児だった割にはずっと一つのことをやり続けてるんだよね(笑)。
上田:(笑)。アンチエイジングという一つの分野を広げてこられて、そして全てが繋がっていますね。
米井先生:糖化ストレスにも2008年頃から取り組んできたけれど、ちょうど糖尿病患者や予備軍が増えたことが問題になってきていた頃で、それもアンチエイジングの中の一つの取り組みとして現在も推進しています。
糖化ストレスについて
上田:糖化ってかなり端的に言い表すと体のコゲですね?
米井先生:まず糖化とは食事などから取った余分な糖質が体内でたんぱく質と結びつき、AGEsという老化物質がつくられることです。酸化は体がサビるなんて表現されるけど、糖化が進むと体がこげるような状態になります。それが糖化ストレスです。その先には様々病気のリスクがあります。
上田:具体的に糖化を防ぐには、どんなことに気をつけたらいいですか?
米井先生:糖化は糖だけでなく脂質の摂り過ぎや喫煙なども影響することがわかっていますが、まずはベジファーストや繊維質の多い食品を積極的に取り入れるなど、血糖値を上げにくい食生活を心がけることが大切。それと食後高血糖って案外ご存知の方は少ないんだけど、食べて30分〜1時間で血糖値が140以上だと血糖値スパイクに相当します。糖尿病ではないし、普段は正常値なのに食後だけ血糖値が急激に上昇している状態。これが糖化ストレスの初期で、血管の内皮細胞障害が起きたり、動脈硬化が進んで血栓もできやすくなる。血糖値スパイクがなぜ悪いかについてはあまり着目されないけれど、血糖値が一気に上昇すると同時多発的にアルデヒドが発生するんです。糖化のネガティブな要素はまさにアルデヒドなんだけど、アルデヒドは反応を起こしやすいから手当たり次第傷つけてしまう。血管の中でそういう現象が起きるから血栓も作られやすい状態になります。それはとても危険な状態。さらに傷ついた血管によってコロナにも感染しやすう、また症状も悪化しやすくなるんですよ。
上田:糖化ストレスによってこんなにも体はリスクを負うことになんですね。
【後編につづく】